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災害時に強い「自立・分散」
─都の放射線測定データ公開に連携した人々─

■2011.3.15 男気社長の指揮で、半日でサーバー開設

翌3月15日(火)朝、灘岡さんは、Webシステムの保守委託しているシステム開発会社に連絡して、システム開発を依頼した。緊急の仕事のため、見積もり発注あるいは入札などの通常の手順はとれない。

微生物疫学情報室の重要な役割のひとつは、新型インフルエンザなどの緊急度の高い感染症情報の収集提供であり、過去にも、緊急にシステム開発を行った経験がある。また自らサーバーを持ちデータを管理しているため情報公開の許可がえられれば、すぐに行動できる。「ここは研究機関として独立しているので、すぐに行動できる」と神谷信行疫学情報室長と灘岡さんは、組織の自立性が緊急時には有効だと語る。

灘岡さんが、「男気のある人なんですよ」というシステム会社社長は、開発依頼を受けてすぐに動いた。「この仕事はボランテイアでよい」と請求書提出を固辞し、他の業務を中断してシステム開発を行い、15日の夕方までに健安研のサーバーにシステムを構築した。簡単な入力操作解説書を作成して、測定者に説明を行い。夜7時には、測定データを公開するインターネットのサイトを開設した。

たった半日の突貫作業で開発したシステムなので、測定データを自動的にアップする機能がない。このあと約2週間は、昼夜二交代の手作業で毎時測定データの入力を行った。

■2011.3.16 18:20 「わかった、何とかする」

15日の午前11時に政府から、福島第1原子力発電所の半径20~30キロメートル圏内の住民の屋内退避の指示が出ていた。
15日夜7時に開設したサイトへ一気にアクセスが集中。
16日午前には、健安研の内からのアクセスが不能。
16日の健安研サーバーへのアクセス数は30万件に達した。

システム会社は、ロードバランサー(注:アクセス負荷を分散させるソフトウエア)を使って対応しようとしたが、あまりにも負荷が高くて対応しきれなかった。そこでシステム会社が使っているデータセンターのサーバーも使い、16日午後3時頃に一旦復旧したが、すぐにまたダウンした。

灘岡さんは、あるセミナーで聞いた厚生労働省の新型インフルエンザ感染情報を扱うサイトの話を思い出した。このサイトはアカマイ(注:Akamai Technologies社の大量アクセスに対応した高速なコンテンツ配信サービス)を利用している。そこで厚生労働省のシステムを担当する大手SIベンダーに問い合わせをしたが、夕方まで待っても返事がこない。ワラをもすがる気持ちで、同じセミナーで講師をしていた慶應義塾大学環境情報学部の中村修教授に頼んでみようと思った。 
  
灘岡さんが、大学のホームページで中村教授の電話番号を調べて、電話をしたのは夕方6時20分頃。

「電話に出てもらえるかわからかったけれど、守衛さんが出てきて、あっさりつないでくれました。運がよいことに、ちょうどそのとき、中村先生は、慶應湘南藤沢キャンパス(SFC)の計画停電対策のために研究室にいたんです」

灘岡さんの話を聞いた中村教授は「わかった、なんとかする」と言って電話を切った。

next page■2011.3.16 18:30「明日やります」vs「すぐやれ!!」

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