RELATION relayTalk Project

RELATION Talk 04

イベント04レポート:
理想のビール造りは大震災にもめげない

■風評に翻弄される。
「原発だって、少数意見を大事にしない日本人の問題だ」

実は、木内酒造は工場に1億円以上の設備投資をした直後の被災だった。地震に追い打ちをかけたのが、放射能の問題だ。

3月下旬にイギリスのブルワリー「The White Horse Brewery」の協力で、木内酒蔵を含む日本のビールの試飲会を予定していた。ところが、EU各国の東日本産の食料品に対する措置は、義務付けた放射線量の検査だったはずが、いつのまにか輸入制限になっていた。ビールを届けられなくなった。

「科学的にはありえないんですよ」と木内さん。原発事故が起こる前に仕込んだビールや日本酒に放射性物質が混ざることは考えにくい。しかし、放射能のマイナスイメージはなかなか払拭できない。深い付き合いをしている輸出代理店は、検査して放射性物質が出なかったことを「よかった」と喜んでくれたが、その先にいる海外の販売店やレストランが検査の結果を信じてくれるか不安があった。

幸い、風評被害は深刻にはならなかった。しかし、ものづくりのマインドは変わったという。木内さんは、地元のホテルやアンコウ鍋屋で自分の造ったビールを味わってもらうのを理想としていた。しかし、魚介類や野菜などは放射性物質の心配があるので、海外から来てくれるお客さんに対して、「茨城に来てよ」と胸を張って言えなくなってしまった。

福島第一原発の事故について、木内さんは「自分たちの責任として、日本人のものの考え方に意見していくべきだ」と語る。少数意見を聞かなかったり、つぶしたり、責任の所在を明確にしない日本人の組織。その弱点が出たのが今回の事故だと考えている。

補償金について問われ、木内さんは少し間をおいて「もうあきらめてます」ときっぱり言い切った。

■クラフトビールへの愛。
「ビールはみんな美味しい」

木内さんは今年1月にサンフランシスコで開かれた「37th Winter Fancy Food Show 2012」(アメリカを定期的に巡回している大型フードショー)にブースを出した。そこでは、ショー全体で5000程のブースがあるうち、約20パーセントがチョコレートメーカーだったとか。

アメリカでは、2500もあるブルワリーと同様に、各地方・町にチョコレート屋がある。チョコレートだけではなく、コーヒーやチーズでも同様の動きがある。このようなスローフードの動きが広まるのは、食文化が熟成している証だ。アメリカの町には力がある。経済もインフレが続いている。

一方、木内酒蔵の地元・那珂市では、仕事がないために、若者が就職して町に出るのではなく実家に戻ってしまい、町の活気が失われている。デフレで経済にも余裕がない。地元に売るだけでは商売が成り立たず、東京のビール市場を相手にした商売を余儀なくされているのが現状だ。それでも、「いいものを作れば町や店がきれいに見えたりする。そういう力が商品にはある」と、木内さんは信じる。

ホワイトエール、ブルックリンラガー、ニッポニア、カクスイングリッシュビター、エクストラハイ。今回のトークイベント会場で提供した木内酒蔵の5つの銘柄を説明する際にも、「自分でもこのビールはまだまだ不満があって、一番なやましい」などとこだわりを見せる木内さん。地方の地酒に過ぎなかった焼酎が一躍全国区となったときのようなマーケティングに頼った売り方はせず、ちゃんとクラフトビールのおいしさを伝えたいと願う。

「どれが美味しくて、どれが美味しくないということはない。ビールはみんな美味しいんだ」。個性的なクラフトビールがそれぞれの顧客に愛されるような豊かなビール文化を日本に根付かせたいと願う、木内さんのクラフトビール愛はとどまるところを知らない。

【執筆者プロフィール】
藤田 展彰(ふじた のぶあき)

1990年生まれ。滋賀県出身。東京大学4年。
宗教学・宗教史学専修。副専攻的に情報学環教育部でメディアのいまとこれからについて勉強中。人々が見えない何かに突き動かされる仕組みに興味がある。世の中が変わるその瞬間に立ち会いたい。

【アフターイベントインタビュー】
ゲストの木内洋一さんに、リレーショントーク終了後お話を聞いた。

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