RELATION relayTalk Project

RELATION Talk 03

イベント03レポート:えんぴつの次に、女川町に希望をもたらすものは

■そして迎えた卒業式
「なんで生徒たちは泣かないんだろう」

生徒92名のうち、2名が亡くなった。20名は阿部先生と一緒に逃げたが、あとの72名は、町中に散りぢりになって逃げた。

地震の翌日、12日の夕方に「先生!」と生徒たちが学校に来た。
「言葉にならなかった」と阿部先生は言う。
生徒たちが着ていた洋服はボロボロ。水浸しの中、山を越え、波を越え、彼らはやっとのことで学校に戻ってきたのだ。みんな、家がもう無いとわかっているから、学校に来るしかなかった。92名全員の安否が分かったのは、3月の末だったという。

卒業式も、当初予定していた3月12日から20日に延期された。ガソリンも何も無い中、50名近くの生徒が学校に来た。体育館は損壊していて使えないため、卒業式は図書室で行われた。みんな制服が津波で使えなくなったため、
、私服やジャージを着ていた。1、2年は狭い図書館に入りきれず、外に並んだ。子ども達は最後の合唱まで歌い、卒業していった。
涙を流す者はほとんどいなかった。

23日には修了式があった。そこでも、1、2年生は泣かないまま、最後の校歌まで歌った。
29日に離任式があった。なんと、卒業生もほぼ全員参加した。阿部先生は、その時初めて疑問に感じたという。
「なんで生徒たちは泣かないんだろう」。

阿部先生が抱いたその疑問は、それからすぐに解消された。
「わたしは忘れられません」。阿部先生は言う。
それは、ある日の休憩時間に生徒の話を聞いて回っていたときのこと。生徒同士が身を寄せながら、こんな話をしていた。
「昨日、家に帰る時、線路の上を歩いていたら、何かグニャッとした柔らかいものを踏んだ。足下を見たら、近所のおじいさんの首だった。せめて首だけでも届けようと、持っていたハンカチにくるんで、家まで届けたんだ」。
また別のところに行くと、そちらでも同じような話をしている。
「みんな、身近な人の死を目の当たりにして、それを乗り越えて学校に来ている。卒業式は永遠の別れではない、生きていればまた会えるとわかるから、泣かないんだな」。阿部先生は納得した。

「何も無くても、子どもがいれば学校は作れる」

離任式が終わると、10人ほどの職員が家にも帰らず24時間体制で、電気のない中仕事をしていた。残ったのは若い先生ばかり。交通手段が無い中、それでも毎日学校へやってくる生徒のために、「合唱やろう」「レクリエーションやろう」「生きてて良かったって迎えてやろう」。…自分たちは何かできるのか、沢山話し合った。

「今思えば、これはある意味、充実していた。だって、何もないところから学校が作れたんです。ある意味、子どもしかいないんです。子どもがいるから学校ができる。あれも無い、これも無い。でも、何もなくても子どもがいれば学校は作れる」
阿部先生は当時を振り返り、そう語った。

■「希望のえんぴつプロジェクト」は、こうして始まった
「ツイッター? それってポッキーと関係ありますか?」

みんなで頭を突き合わせながら「これから学校をどうしていこう」と考えている時に、ある女性の先生が段ボール箱を持って「鉛筆、消しゴム、ノートがあったらこの中に入れてください」と先生たちの間を回りだした。
「この忙しい時に、何してるんですか?」と聞くと、その先生は阿部先生の方を見て、「先生、こんな時だからこそ、4月8日に学校始めるんでしょ? 文房具もないのにどうやって始めるんですか? 買う所も、ガソリンも車も無いよ」と言った。
阿部先生はことの重大さに気がついた。結果的にその日、職員10人で探しまわって集められた文具は、段ボールの底が見える程度だったという。それが3月30日。始業式まであと8日しかなかった。

「文具を集めるためにはどうすればいいのかな?」。
ふと、震災以来電源を入れることもなく存在を忘れていた携帯電話が目に入った。電源を入れたら、沢山の着信が来ていた。阿部先生は閃いた。「この人たちに文房具を送ってもらえないか頼んでみよう!」

三重県のNPO団体、愛伝舎に事情を話すと、「先生、わかりました。女川町で『もう支援はいらない』と言われるまでお付き合いします」と返事をくれた。そして4月7日に、さっそく文房具が届けられた。
こうして、『希望のえんぴつプロジェクト』は始まった。

「ツイッター?それってポッキーと関係ありますか?」。
はじめはソーシャルメディアの知識がほとんど無かった阿部先生だったが、4月以降、周りの人に教わりながら少しずつ、TwitterやFacebookで呼びかけをして、学校の運営に必要なものを集めていった。幸いこのプロジェクトの他にも、韓国、東北大学など、様々な団体から支援を受けることができた。

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