RELATION relayTalk Project

RELATION Talk 04

イベント04コラム:凛として歩む強さ

2012年2月26日(日)開催・RTPトークイベント04:関連コラム

東日本大震災によって、日本人は改めて、自分の生き方、社会のあり方を考えた。震災の復興に向けて、被災者の経験を語り継いでいく、RELATION relayTalk Project。トークイベントの第5回目にゲストとして登壇した木内洋一氏(木内酒造常務取締役)は、被災したにもかかわらず、「被害者だと思われたくはない」と語り、「クラフトビールの普及に貢献したい」と、酒造メーカーという自らの仕事に対するぶれない姿勢を語った。(文/難波寛彦 写真/野口直哉)

■「同情を買いたくない」

震災で、木内酒造も大きな被害を受けた。古い社屋の屋根瓦が大量に壊れ、それだけで2000万円以上の損害となった。そのうえ約2か月間操業が停止した。にもかかわらず、木内氏は「被災者ということを表に出して商売はしたくない」という。
「がんばろう東北」、「東北を元気に!」、「東北産を買って、東北を応援しよう」といったコピーが街のあちこちに掲げられている。震災以降、「被災地の商品」がブランドと化し、大きく売り上げを伸ばしている事実から見ても、被災に同情して商品を買う人が多いことがわかる。多くの人が亡くなり、様々な被害を受けた被災者にとって、自分たちの商品を購入してもらえることはありがたいはず。
 木内氏は「同情を買うことで売り上げを伸ばすようなことはしたくない」という立場だ。そこには商品に対する自信と、酒造メーカーとしての高いプライドがある。
今回の震災における甚大な被害を鑑みると、どちらにも理がある。しかし、敢えて「同情を買わない」立場を選ぶ木内氏の態度に、「強さ」を感じた。

■素晴らしい商品を作る誇り

1994年の酒税法改正で、全国各地で地ビールの製造・販売が巻き起こった。その多くは観光地ブランドのビールだった。遅れて参入した木内酒造だが、米国やドイツの醸造技術を取り入れて、徹底的に品質にこだわり、日本の地ビールのトップブランドへと上り詰めた。
木内さんは、「素晴らしい商品やスタッフに出会うと、それを提供する店舗や地域も素晴らしく見えるようなことがある。そういう力がある」という。

私が、アルバイト先の研修に参加した際に配られた資料に、「100-1=0」というものがあった。“どんなに素晴らしいおもてなしをしていても、どんなに素晴らしい商品を提供していても、たった一回、不快にする行為や不良品の提供をしてしまえば、お客様は二度と訪れなくなってしまう“ということだそうだ。

私は、カフェチェーンのスターバックスを贔屓にしてきた。一昨年に一年間を過ごした仙台、地元の秋田、そして東京と、様々な店舗を訪れた。しかし、どの店舗でも一貫しているのが、ドリンクのクオリティーの高さとスタッフの温かい接客だ。どこでも、どんな時でも変わらないその素晴らしさを求め、出かけた際は、つい近くの店舗を探してしまう。

私のスターバックスでの経験に木内さんの言葉は通じている。人に影響を与えるようなものには当然、膨大なコスト、時間がかかり、提供するまでの道のりは長い。しかし、手間暇をかければかけるほど、より良いものが生まれ、より多くの人をひき付ける。
木内さんの言葉は、地域の誇りとして商品を作り続ける者の哲学のように聞こえた。

■多数派に流されない、強い意志を持って

今回の福島での原発事故について、木内さんは「日本人は合理的にものごとを考えすぎたり、少数派の意見を排除する。そういった悪い部分が原発事故という問題に表れた」と語る。
単一民族国家を形成する日本人は、いつもどこか統一性を重視し、排他的な雰囲気を持っているように思う。
数年前、KY(空気が読めない)という言葉が流行した。この言葉は、その場で一人だけ浮いてしまうような行動や発言をする人に対して使われる。それは、他人と意見を合わせ、仲間と同化することを美徳だと感じる日本人の特徴をよく表している。つまり、プロテストするマイノリティーがいたとしても、異質なものとして葬り去られてしまうのだ。

重大な事故が起きたことで、「脱原発」が大きく叫ばれるようになったが、以前から原発の危険性を指摘し、原発依存へ警鐘を鳴らしていた人はいた。政府や電力会社はそれを黙殺し、それどころか電力を大量消費するオール電化などのプロパガンダを推進し、それを賄う原発のクリーン性を主張してきた。ところが、震災を機に様々な問題が露呈してしまった。
私の実家がある秋田でも停電が起きた。オール電化だった我が家は、暖房、コンロ、給湯器がひとつも稼働せず、初めて不安を感じた。利便性だけが目に映り、それを信じて疑わなかった私たち家族にとって、そのとき感じた不便さは “想定外”の出来事だった。

こんな時だからこそ、我々は溢れる情報を批判的に読み取り、吟味していかねばならない。個々の主張をしっかりと持ち、むやみに流れに乗らない強い意志が必要ではないか。
大手ビールメーカーに負けず、個性を持ったクラフトビールを作り続ける木内氏に、そうした「凛として歩む強さ」を見た。

【執筆者プロフィール】
難波寛彦(なんば ひろひこ)
1992年生まれ。秋田県出身。玉川大学1年。
リベラルアーツ学部リベラルアーツ学科在籍中。様々な分野に関心があるが、ファッションとアートには特に興味がある。何かを文章というカタチで表現することについて勉強中。

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